数発の花火が上がり周りが騒がしくなる。
祝いの花火ではない、船の周りは物々しい武装船団で囲まれていた。

隣国への最終便が出発する。
強力なモンスター対策として、武装船団が周りを護っているのだ。
皆、デッキの手摺から身を乗り出し、別れを叫んだり手を振っている。

船が、ゆっくり動き出し段々と岸から遠ざかり、見送りをしている人々の顔がわからなくなっていく・・・

一際目立つ大きな人物達の元へ、数人の兵士らしき団体が駆け寄るのが見えた。
大男は呑気に手を振っている。

その瞬間、爆発音と共に大男達の居た一帯が煙に包まれた。

ソワソワしながらその様子をみていると、やがて煙が晴れた。
そこにはあたりを見回している兵士達以外何もいなかった。

煙玉なんて持ってるなら、二番隊長と事を構えずに済んだんじゃ・・・

そんな考えがよぎったが、煙の出ている時間も数十秒だし
見晴らしの効く高低差のある場所で使ってもあまり効果的でないのか・・・という結論に落ち着いた。

乗っている船は客船では無く、定期的に往来する連絡船の為、乗客一人一人の客室はない。
広い客室と食堂があるぐらいで、各々が好きな所へ荷物を置きくつろいでいた。

始めは船内を見て回っていたが、どこも同じような作りで到着まで時間を潰せるほど広くもない。


・・・すぐに飽きてしまった。

だが、興味深いものを見つけた。それは、赤い顔をしてフラフラと歩いていた。

誰がどう見ても酔っ払いである。ただ一つだけ目を引くものがあった、その男の片足が棒でできているのだ
後に判るが義足というらしい、その男は客室の隅に陣取り一人で酒盛りをしていた。

ダイヤモンドの騎士団にも、義肢の騎士は存在していたが、一般人では物珍しかったので、その男の側に自分も陣取った。
男はかなり酔っていて、ブツブツ何かを言っていた。

内容はよく聞き取れなかったが、これ以上近づくと強烈な酒の匂いで参ってしまいそうで近づけなかった。

もっとも酔っ払いの戯言を聞いても、タメになる情報はないであろう。


暫くして、甲板が騒がしくなってきた。
客室から甲板へ出てみると、今までの晴天とはうって変わり空が真っ黒い雲に覆われていた。

乗客達は、「海の天気は変わりやすい」とか「嵐がくる」とか思い思いの事を言っていた。

客室へ戻ってみると、例の男の様子がおかしい、見てわかるほどガタガタと震えており
「もう終わりだ・・・」とか「アイツが迎えにきた・・・」と、うわ言のように繰り返している。

終末を説いてまわる変な宗教信者なのかと思ったが、聞き覚えのある単語が耳に入ってくる。



「クラーケン」
タコだかイカの姿であっただろうか。

昔、絵本で読んだことがある。巨大なソレは、島と間違えるほどの大きさで、津波の原因であるとされている。
ただ、空想上の生き物である。

絵本では、伝説の剣を探す為に海を渡る勇者に襲いかかるが
勇者は神から授かった「岩を溶かす程強力な炎を吹く杖」で退治するという話だった。

そんな事を考えていると、船員たちが騒ぎ始め、乗客が客室へ戻ってきた。
どうやら風が止んだらしく、船が進まないらしい。

強力なモンスターが居る海域だ、戦闘に備え船員達は甲板へ上がり、乗客を客室に戻るよう促したらしい。

しばらくすると
激しい爆発音と共に外が騒がしくなる「命が惜しいやつは外に出るな!!」と船員が駆け込んでできたが
怖いもの見たさも手伝って自分は甲板へ飛び出した!


・・・目の前には戦艦があった。


海から伸びる触手に掴まれ、戦艦が丸々一艘宙に浮いていた。

その他の戦艦も一斉に触手に砲を向け弾を発射しているが、全く効いていないようだ、段々と触手の主が姿を現す。

「クラーケンだ!!」
その場にいた船員達は、口々に驚きの声をあげている。

もう一方の触手が振り下ろされ、戦艦が一撃で破壊されてしまった。

「もう終わりだ・・・」
絶望的な光景に、弱気な声も聞こえてくる。


火だ・・・
あの物語を思い出し、船長の元へ走ったが、船長は船長室で縮こまっていて全く役に立たない。

舵のあるデッキへ駆け上がり叫んだ
「皆の者落ち着け!我は先の王国の王子なるぞ!!クラーケンの弱点は火だ!勇気のあるものは力を貸して欲しい!!
この船に積んでいる、油と火薬を海に撒くんだ!信号役は他の船にも伝え、ありったけの油と火薬を用意するんだ!」

そう叫ぶと信号役に他に戦艦にも伝えるよう合図をおくる

火打ち石を使って松明に火をつけた。

みるみるうちに海が一面油で黒く染まり、所々火薬の樽が顔をのぞかせている。

「よしっ!!火を放つぞ!全速力で海域から抜け出せ!!」

他の船にも合図を送り、人力で海域から離脱し始めたのを確認し2、3本松明を海へ投げ込む。

あっという間に燃え広がり文字通り一面が火の海になった。
所々で火薬の樽に引火し爆破している。

今まで聞いたこともないような、悲鳴のような雄叫びのような声をあげ
クラーケンは海底へ逃げて行く、この程度の火では追い払うのがやっとのようだ・・・

だが、こちらとしてはそれだけでもありがたい。
クラーケンがいなくなると凪も収まり風が吹き出した、だが火薬はもうない。

急いで目的地まで向かなければ・・・
別のモンスターがやってきては、元の木阿弥だ。

収拾のため名乗りを揚げたが、拘束され叔父の元へ突き出されるのではと後悔した。

だがその場にいた船乗りたちは
「咄嗟によくあんな嘘を思いついたなぁ、こんな所に王子がいるはずが無いのに
おかげで落ち付きを取り戻せた。
もっとも王子様が、こんな汚らしい格好してる訳はないよな」
と、笑い話になっているようだ。

汚らしい格好の王子で悪かったな・・・。

と心の中で悪態をついたが、丸く収まってなによりだ

目的地に到着すると、皆、安堵の表情で船からおりて行く

さてこれからどうしよう・・・
いく宛も差し当たって目的も無い、仕方がないので、ひとまず今日の夕飯を心配する事にした。

すると後ろから
「おい王子のボウズさっきはありがとな、これから祝い酒だ!!さっきの礼に奢ってやるからついてきな!」
と水夫達に声をかけられ、夕飯の心配もいらなくなってしまった。

仕方が無い、きっと聞かれるであろう身の上話を考えておくか・・・


「はっはっは、こいつは傑作だ!!迫力があったから、ちったぁまともかと思ったら
親に見栄を切ってアテもないのに海を渡った小僧が、王子様気取りとは腹がいてぇ・・・あはっはっは」

盗賊団の身の上話をいろいろ組み合わせて作った話で
そんなに面白いことを言ったつもりは無かったのだが。大笑いされている・・・。


いろいろ話を聞いてみるとこの国にも冒険者ギルドがあるとの事。
この国で依頼を受ける為には、ユニオンに所属しているか、冒険者ギルドの試験に合格しなければいけないらしい。

詳しい事はギルドに聞くといいという事で、話が終わってしまった。


その日は普通の部屋で眠る事ができた。
というのも船乗りの一人が宿をやっているらしく、そこの部屋に泊めて貰えたのだ。
普通の部屋だったので、ふかふかなベッドとまではいかなかったが
まともな寝床で寝るのは久しぶりで昼までぐっすり寝てしまった。

これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないので、勧められたお昼ご飯を泣く泣く辞退し冒険者ギルドへ急いだ。
		

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