混濁する意識の中顔を上げると、二番隊長がバスタードソードを振り下ろす所だった・・・

ハッとして一気に意識が覚醒した。

・・・がそこには誰の姿もなく、ただ川が緩やかに流れているだけだった。

「幻か・・・」
ホッとしながら痛む身体をやっと動かし、川から這い上がったが、そのまま気を失った・・・

初夏とはいえ、まだ肌寒さが残っている。
寒さで目を覚ますと、辺りは夕刻の陽に照らされ赤く染まっていた。

遠くに煙が見えた。

人の居る所では危険かもしれない、だがこんな場所では
野生動物や野盗など、何に狙われるか判らないより幾分安全であろう

今は着ているものを乾かし、暖かい食事にありつきたかった。
痛む身体を励ましながら、立ち昇る煙へ向かって歩みを進めた。



それは小さな村で一際大きな建物から煙が立ち昇っていた

扉を開けると良い匂いが食欲をそそる。腰の皮袋を漁って見たが、銅貨が3枚程度だった。

「これで何か食べるものを」

暖炉のそばに陣取り、銅貨3枚を酒場の娘に手渡すと、申し訳程度の具が入ったスープと
味のない固いパンが一つ運ばれてくる。

王宮では貨幣など不要だったが、平民は金・銀・銅・錫の貨幣で
品物をやり取りすると盗賊団の皆に教えて貰った。

金貨が1枚あれば、酒と食べ物は食べ放題だという

誰とは言わないが
「あっしは生まれてから見たことなんてありやせんが・・・」とションボリしながら教えてくれた

パンをふやかしながら食べていると、竪琴を爪弾く音と共に歌声が酒場に響いた。

「今日は吟遊詩人が来ているんですよ」
酒場の娘へ物珍しそうに尋ねると、嬉しそうにそう答えてくれた。

詩に耳を傾けてみると、隣国との戦争で活躍したダイヤモンドの騎士の物語であった。
数ヶ月前のことなのに、王宮にいた頃が遥か昔の事ように思えた。

自然と涙がこぼれ、人しれず泣いていた。
今はまだ叶わないかもしれないが、犠牲になった人達の為にも必ず再建を果たそうと心に誓った。

落ち着いてきた頃、食器を片付けて貰い
酒場の亭主に、お金は無いが泊めて貰えるところがないかを聞くと
目を腫らしていたのを可哀想に思ったのか馬小屋を貸してくれた。

翌日、この村にも冒険者ギルドがあるとの事で、港町までの使いを引き受けた。
手紙を配達するだけの簡単な仕事なので、報酬は少ないが
路銀もないので、贅沢は言っていられないし時間も掛けていられない。

目的地もどうせ向かう街だ、ついでにお金が貰えるなら御の字だ。
何度か盗賊団の仕事を手伝っていて良かったおかげで、スムーズに処理を行うことができた。

仕事を受ける際のユニオンの名前は、盗賊団の名前を使わせてもらった。
これでギルドから受領した依頼の知らせが行きこちらの足取りもわかるだろう。

港町へは半日ぐらいだという。空腹と戦いながら港町への道を歩き出した。

・・・すると、向こうから見覚えのある大男が、数人と共に馬車でやってきた。

「良かった!本当に良かった!あっしはもう会えないのかと思ってやした。」
泣きそうな大男に抱きつかれ、件の臭いモサモサした毛皮に嫌というほど顔を押し付けさせられ
解放されたのは鼻に臭いがついてからだった・・・

港町へ着くと受けていた使いの依頼を済ませた。

宿に部屋を借り、そこで現状を教えてもらった。
何でも昨日の一件を受けて、公爵が大々的に、自分の討伐参加表明を発表したとの事だ。

公爵は、自分をかくまう事によって自身の立場が悪くなるのを防ぎたい様だ
ただ、海を渡って隣国へ行く船だけは検問がなくザルだという

もっとも、海には強力なモンスターが出るようになっており、隣国との定期便も次の船で無くなるようだ。
最終便の出発に向け船の周りが、慌ただしくなっている。

「・・・これが旅券になりやす。」
その最終の定期便の旅券を渡された。

旅券の名前にはフェンと記載され、これからはフェンと名乗る様に、と念を押された。

一度国外へ逃げ戦況を見て、国へ戻り反勢力を束ねて叔父を討つのを待つ機会を待てとの事らしい。
状況が分からない訳では無かった、ただ悔しかった。

なんと取り繕おうと国から逃げ、戻るなという事だ・・・。
国外でどうやって戦力を蓄えられよう・・・

海には強力なモンスターも出没するようになり、国交も途絶え様としているのだ。
海を隔てた隣国の情報など、入ってくるはずがない。
戻れる時期などわからないのである。

解った所で海を渡る術が無い、戦力だけでなく船まで手に入れなくてはならないのだ。
叔父を討つだけの戦力を乗せられるほどの船が・・・

何か策があるはずだ!と猛反発した。

だが大男は俯いたまま、黙って旅券を・・・
これからフェンと名乗るであろう少年の手に握らせた。

「あっしは難しい事はわかりやせん、でも、この戦い勝ち目がないのだけはわかりやす。
王子・・・いやフェンさんの話を聞いていれば、どれだけの人が犠牲になった事か・・・
だからこそ犬死しちゃいけやせん、生きて下さい。どうか・・・」

そう言うと、握る手に一層力を込めた。

・・・その言葉で目が覚めた。

自分の目的は仇を討つ事だ、そして王国を再建する。
漠然とした目標しかないが、少なくともここで騒いでただ犬死することではない。

可能性が少しでもある方へ賭けてみてもいいかもしれない。
まずは強くなる事。

自分一人だけの強さではなく、強い絆で結ばれた戦力を作る為、やらなければいけないことが沢山ある。

まずは生き延びる事だ
「ありがとう、皆にはお世話をかけた、頭領にもよろしく伝えて欲しい、必ずこの地に戻ってくると。」

最終便の準備も終わったようだ、水夫の姿もまばらになり、代わりに大きな荷物を持った人達の姿が増えてきた。

持って行く物など数えるぐらいしかないが、自分も身支度を済ませ出港時刻を待つ。
大きな荷物をもった家族連れに混じって、自分も最終便に乗り込んだ。

ただ、目には見えない、大きなものを背負って・・・
		

著作権表示 〜〜〜二次制作物に関して〜〜〜 管理人は著作権を放棄しておりません 一切の無断使用を禁止とさせて頂きます