「――――罪状!この者は普段より窃盗などという卑劣極まりない行為を繰り返し
義賊などと名乗り平民を惑わし、とうとう王より名誉の為に送られた紋章を盗むまでとなった!
よって!!ここに死罪を言い渡す!!」


両手を後手に縛られ絞首台に立たされた男は、恨めしそうに天を仰いでいた。
運が悪かったのだ・・・
その一言で片付けられてしまうだろう。そう、その男は運が悪かったのだ。


王が・・・
父上が政敵である叔父の息子へ国の紋章をかたどった首飾りを贈った。



それは、国の剣術大会での健闘を称え贈られる物だ。
選りすぐりの名工の手で作られる唯一無二の物で、騎士に志願する者の憧れの一品である。
毎年志願者を集め行われるのが、この剣術大会で、成績の優秀の者にはこの首飾りが贈られるのである。


叔父の動向を危険視していた父上は、かねてより剣の腕前に定評のあった叔父の息子を
騎士に取り立てたいと申し入れた。
息子を手元に置くことで、大胆な行動を起させないという事だったのだろう
叔父も城内の動向を探らせるために、外見上はしぶしぶ了承をしたようだ。


剣術大会で優勝をした彼は、大会の余興として自分に対決を申し込んだ。
確かに彼は腕がたつ、しかしそれは田舎仕込みの剣術で、剣を握ったことも無いような素人には通用しても
毎日の様に勉強を抜け出しては、騎士団長に剣を教えてもらっている自分には歯が立たなかった。

それは決して、うぬぼれではないと思う

彼の集中力の切れた瞬間に、騎士団長に「今です!」と叫ばれなくても
決着は目に見えていた。ただ、その声に気をとられた彼の剣を弾く事は容易であったというだけに過ぎない。


彼は納得のいかない表情であったが、周りの目もある
彼は握り締めた拳を地面に叩き付けると、無言のまま剣を拾い礼をして退場していった。


剣術大会も終わり、祝賀会が庭園にて開かれることとなっていた。
彼は祝賀会の途中、城の裏手へ自分を呼び出した。
彼の手には、2本の剣があった片方をこちらに放ると
もう一度勝負しろとばかりに剣を構えた。


自分も剣を拾い受けて立つ事にした。
やはり彼の腕前では太刀打ちができなかった様で
2回ほど剣を打ち合わせたが、そのまま弧を描くように剣を走らせ突き上げると
彼の剣は宙を舞い、地面に落ちた。


彼は悔しがり、何度も「クソッ!」と叫ぶと、王より賜った首飾りを
川の中へ投げ入れ走り去ってしまった。


自分は気にも留めていなかったので、黙っておこうと思っていたが
大臣が見ていたようだ。早速、王へ報告が行った。


翌日に行われる予定の騎士叙任式で、剣術大会の優秀者は
首飾りの着用が伝えられたのは、その日の夕刻であった。


当然あたりは暗くなっている、今から探しても十分な明かりの無い状態では
首飾りは見つからないであろう
もっとも、その首飾りは、既にこちらの手の中にある
どんなに必死に探したとしても絶対に見つからないのだ・・・


『礼を重んじる騎士が、王国からの命に背く』それだけでも大変なことである。
それどころか王より賜ったものを無くすなどとんでもない事なのだ。


息子の晴れ舞台である。
当然、叔父もこちらに来ていた。

騎士叙任式当日・・・
考えたもので、首飾りがこちらにあるとは知らない叔父は
息子と共に男を捕らえてやってきたのである。
義賊と名乗り周辺を騒がせていた男だ
悪名の高い商人達から盗みを働き、恵まれない家々へ金を配っているらしい。


叔父の話では、彼に首飾りを盗まれ
首飾りは既に売られた後で、その後どうなったかもわからないという
その1週間後にこの男の処刑が決まった。


「最後に口上を述べよ」と大臣が絞首台の上に居る男へ叫んだ。


「俺はやっていない!!あの男が勝手・・・」
「ええい黙れ!さっさと刑を執行せよ!!」
死人に口無しとばかりに、叔父が男の言葉をさえぎった。


衛兵が合図をして絞首台のロープを切るため執行人が斧を振りかぶった。
「その執行お待ちください!!」
手はず通り自分が叫ぶ・・・


「王子!いくらお優しい王子と言えど、罪人に慈悲をかけるなどどういう事ですかな」
叔父が焦った様にまくし立てる。


「では、逆にお伺いします。騎士の身分にありながら、その国の王子に剣を向け
王より賜った首飾りを無くし、その罪を他の者になすり付け処刑し、闇へ葬ろうというのは
どういった事でしょうか。」


「なっ・・・」
真実を言われ言葉を失くした叔父に
「なんてひどいこじつけだ!」と叔父派の援護が飛んだ


「アレをこちらへ持て!!」
衛兵が首飾りを持ってくる。


実際に首飾りが無ければ、叔父派の連中にこじつけだと騒がれ
このまま闇に葬られていたに違いない


だが首飾りはこちらにあるのだ。


「その男を処刑台から降ろし自由にせよ!」
自分の合図で男は解放されたが、頭を地面にこすり付けるほど平伏をしたまま
動かない。


「頭を上げよ!噂によれば民の為に尽力をしていたと聞く
これからは国の為に働いて欲しい。私からそなたへ私略許可証を授けよう」
と声を掛けると男は驚いたように一度こちらに顔を向け、また同じように平伏をした


私略許可証とは、簡単に言ってしまえば、戦争状態にある敵国からであれば
盗みを働いても不問にするという
免罪符である。


後々大臣からは、許可証まで授けるとは何たる事!と叱られてしまったが
父上はそのときの大臣の顔が傑作だったと大笑いしながら、よくやった。
と褒めてくれた。


その後、叔父とその息子はさらに辺境の地へ追放となった。
国外追放にならなかったのは父上なりの慈悲だったのであろう・・・
その件の逆恨みが今回の要因になっているようだ。


ガタイの良い男は自分が王国の王子である事を平伏したまま
その場の人間に話した。
その場に居た者達はみな平伏をした。


なんとなく居心地が悪かったので顔を上げてもらえるようお願いをした。

介抱してもらった事や、こちらが命を助けている事
信頼出来そうな事もあり、暫く厄介になることにした。


聞いた話では王都が陥落した日から、既に3日経っているらしい
叔父も必死に自分の事を探している様で、自分の賞金までかけているようだ


ガタイの良い男の話では、どうやら叔父側には近衛兵団がついたようで
反対派は徐々に撃破されており、暫く様子をみるべきとのことだ。


何処から情報が漏れるか分からないので、平服などは一切禁止にしてもらい
一時的に盗賊の仲間入りをする事になった。
		

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